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レオンハルトは、婚約破棄の尻ぬぐいをしなくちゃいけないと、今は自宅に向かっている。
もしも、気が変わって。婚約する気になったらどうしようか。
空になったカップを手の中で遊びつつ、ビーシュは、それはそれで良いのかもしれないと口元を緩めた。
レオンハルトがほかの誰かを好きになっても、その視線の中にいられるだけでいい。好きと言われなくなっても、構わない。
愛おしいと思う気持ちさえ失わなければ、ビーシュは満たされていられる。馬鹿な男だと笑われるかもしれないが、ほんのささやかな望みだけで、今はじゅうぶんだった。
「でも、できれば……一緒にいられたら、いいけどね」
珈琲を飲んでひと息ついた。
星空が見えるが、時刻としてはまだ早い。いまから自宅に戻り、部屋を片付けよう。
明日、ビーシュの自宅で珈琲を飲む約束をした。
まさか、誰かを招く機会ができるなんて思っていなかったから、夜通しの作業になるかもしれない。
体はひどく疲れていたが、心はとても浮かれていた。
ビーシュは作業台を手早く片付け、工房を出て鍵を掛けた。
病院は受付をとっくに終了していて、夜勤の職員と入院患者しかおらずとても静かだ。
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