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帰り際、軽く食べられるものを買おう。そう、頭の中で算段しながら階段を上りきった先で、ビーシュは見慣れない人影に首をかしげた。
「お帰りですか、スフォンフィール先生」
灰色の髪を短く切った男は、患者でも、患者の家族でもなさそうだ。もちろん、医師や看護師でもない。
さすがにビーシュも警戒しながら、男をじいっと見つめる。
「ぼく、あなたとお会いしたことがありますか?」
「いいえ、はじめてですよ。ただ、妹のほうは多少ならず面識があるかもしれません。ロナード様の身の回りの世話をしていますので」
ビーシュのわずかばかりの警戒心をほどくよう、ゆっくりとしゃべる男に、合点がいったと頷きかえした。
「サティさんの、お兄さんですか」
「ええ、双子の兄です。よく似ているでしょう? オレはレスティです。よろしくお見知りおきを」
全くの他人でないとわかって、ビーシュはほっと息をついた。
「あの、エヴァン様は、お怒りになられていませんか? その、ぼくはたぶん、失礼な帰りかたをしてしまったようなきがして」
「いいえ、お気になさらず。たまには振られるのも一興でありましょう」
くるっと背を向け、職員用の出口に向かって歩き出すレスティを慌てて追いかける。
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