四章 甘く包まれる

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 オスカー家の三人の男子の中で、上二人はすでに結婚して子供もいる。跡継ぎに困らない状況とあっては、上手く成立すれば上々といったくらいの、軽い気持ちだったのだろう。  アーカム家としては、災難だったのかもしれないが。  オスカー家の客間で、レオンハルトは不機嫌を隠そうともしないニルフと対面した。  婚約の破棄を言い出したのは、レオンハルトではなくエリスだった。  ニルフはアーカム家の代表として婚約破棄の詫びをいれにオスカー家に来ていた。 「随分と、遅いお帰りですね」  レオンハルトがビーシュの工房を出て家に戻る頃には、とっくに話し合いは終わり、夕食も済んだ後だった。 「僕の代わりに夕飯を食べてくれて、感謝するよ。うちの料理長は、少しばかり気むずかしくてね。料理が残るととたんに不機嫌になって、しばらく不味くなってしまうんだ」 「それ、遠回しの嫌みだったりしますか?」 「いいや、素直な感謝の気持ちだけれど。どうして?」  なにか、気分を害することでも言っただろうか。首をかしげると、ニルフは髪をかきむしって大きく、わざとらしいため息をついてみせた。 「そうですね、昔からレオンさんは悪い意味で表裏のない人でした。でも、好きでしたよ。貴族軍人らしく強くて賢くて……あなたと話しているときの姉さんはとても楽しそうだったから、上手くいくかもしれないと思っていたんです」     
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