四章 甘く包まれる

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「僕は、君よりもずっと、守りたいと思うものが少ない。そのせいかな、一緒にいたいと思う人と一緒にいることしか考えきれないんだ」 「一緒にいたいともう人に、姉は含まれていないと?」  ぎりっと拳を握るニルフに臆さず、レオンハルトは頷きかえした。 「エリスは、たまに会いたい大事な友人だよ。とても大事な人だ」  ニルフの表情がゆがむ。今にも泣き出しそうな顔だった。  悪いなと思う気持ちはあるが、嘘は言えない。取り繕う言葉すら、多くを知らない。 「なら、どうして婚約を受けたんですか」 「エリスなりの好意だったからね、断る理由も、その時にはなかったんだ」  ビーシュに出会っていなければ、淡々と流れるままに生きていただろう。それも、けっして悪い人生ではない。  流されず、立ち止まることを覚えた。川の流れから飛び出すほどに素敵なものを、レオンハルトは見つけてしまった。 「僕は、彼のことが好きなんだ」  体に染みつく、珈琲の香り。  つかんだら離さない、本人はおそらく気付いていないであろうアメジストの強い視線。  思い出すと、体の芯がじんわりと熱くなる。いてもたってもいられない。できるなら、今すぐにでも会いに行きたい。  ついさっきまで激しく求め合ったのに、足らないと思うなんて初めてだった。 「……帰ります」     
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