四章 甘く包まれる

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6  水の中から引き上げられるような、急激な覚醒だった。 「……あれ?」  ぼんやりと霞む視界に、ビーシュは目をこする。体調の不良ではなく、眼鏡が無いようだ。 「ゆっくり、起き上がりください」  身じろぎ、起き上がろうとしたビーシュの背中を、しっかりと支えてくれる細い腕に顔を上げる。 灰色の髪の女性、サティとエヴァンに呼ばれていた女性がいた。 「お目覚めですね、スフォンフィール先生。手荒なお招きになってしまい、申し訳ありません。魂の片割れなれど、我が兄は礼節という心が足りておらぬゆえ。どうか、お許しいただければと」 「面倒くさいことは嫌いでね。それに、ただの薬じゃない。先生、体すっきりしているんじゃないかな? わずかな睡眠でしっかりと疲労回復できる特殊な配合の薬でね、ロナード様が成り上がったのもこの薬のおかげなのさ」  悪びれた様子もなく、金のワイヤーで美しく飾られた小瓶を手の中で振っているのはレスティだった。 「あぁ、たしかに。すごいな」  言われてみて、ビーシュは己の体の軽さに弾んだ声を上げた。レオンハルトと体が溶けるほど愛し合い、実際腰の抜けていた体もいまはさほど気にならない。     
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