四章 甘く包まれる

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「……僭越ながら、スフォンフィール先生。もう少し、いえ、もっと警戒心をお持ちになられたほうがよろしいかと」  眼鏡をビーシュに掛け、サティは視線でレスティを部屋の向こうへと追いやった。 「私どもがいくら同情しようと、主人であるロナード様の意向には逆らえないのです。先生は、拉致されてきたようなものなのですよ」  不穏なサティの言葉に、さすがにビーシュも目を丸くした。 「愚兄のせいで乱暴な扱いになってしまったのは、私どもとしても不本意ではあります。が、交渉に応じていたがこうと拒否されようと、エヴァン様は先生をお連れするお考えなのです」 「……どうして?」 「ビーシュ、君がメルビスだからだよ」  レスティと入れ替わるようにして部屋に入ってきたエヴァンに、サティは深々と頭を下げて部屋を出て行った。  ばたん、と閉まるドアの音に顔を向ければ、エヴァンはおびえていると取ったのだろうか、ゆるく笑った。 「ぼくはおじいちゃんじゃありません、作品でもない」  エヴァンの倒錯を、残念ながらビーシュには理解できない。  どうしてだろう。あんなにも、優しく余裕のある人だと思っていたのに、今は別人のように冷たい顔をしている。 「オレにとっては、きみも愛でるべき宝飾品のひとつなのだよ」     
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