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ベッドの上で動けないでいるビーシュから視線を外さず、エヴァンは部屋の隅に置いてあった鞄を手に取り、放り投げた。
派手な音がして、中身が床に散らばる。
きらきらと、天井にある照明よりもなお、眩い煌めき。宝石を彩る宝飾品の数々。
「すべて、メルビスの作品と謳って取引をされていたものだ」
ビーシュはエヴァンの様子をうかがいながら、宝飾品の一つを手に取った。
ルビーが美しい細身の首飾り。床に投げ捨てるほど乱暴な扱いをされてしまったが、とても良い品だ。石のカットも彫金も、とても美しい。
美しいが、メルビスのものではない。
メルビスの特徴は、たばこの灰汁のような微妙なゆがみだ。見る者によっては嫌悪感を、見る者によっては絶妙な美を感じさせるズレ。手にある首飾りには、それが見えない。
「偽物、なのかね?」
「ええ、おじいちゃんの作品としては」
ただの美術品であるならば、とても良い品だ。名のあるパトロンがつけば、高額で取引もされるだろう。
一番の収集家であるエヴァンの目をごまかすほどに精巧なのに、細部のすべてを模倣していない贋作。ビーシュには、無言の抵抗のようにも思えた。
ビーシュの鑑定に、エヴァンは苛立たしげに、足下に転がった宝飾品を蹴飛ばした。収集家としての矜持を傷つけられたに違いない。
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