四章 甘く包まれる

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「明日、エーギル・バロウズと商談を予定している。ビーシュ、君も同席したまえ」  有無を言わさぬ威圧的な声音に驚き、ビーシュは首飾りを落とした。反射的に拾おうと伸ばしたが「触るな」と一喝され、動きを止める。 「あ、明日は……駄目、です」  レオンハルトとの約束がある。  訴えようとして、間近に迫ってきたエヴァンに、ビーシュはベッドの上で這いつくばったまま後じさった。 「レスティからきいた。ビーシュ、君はオスカー家の三男坊に、色目を使っているらしいな。結婚も控えていた若者をたらし込んで縁談を破談させるなんて、じつにはしたない男だ」  触られていないはずなのに、エヴァンの言葉がビーシュの喉を締め付ける。  苦しくなる息に、ビーシュは胸元を押さえて、頭を振った。違う、違うと。たやすく揺らぎそうになる己に言い聞かせる。  レオンハルトは一緒にいたいと言ってくれた、真摯なその言葉を疑いたくない。  信じていたい。 「ビーシュ、おいで。俺から、逃げるんじゃない。毎晩、君を愛してあげただろう? 俺とオスカーの三男坊とどこが違う? なにがいい? 前途ある若者を日陰の世界に引きずり込んで、心は痛まないのかね?」     
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