一章 矢車菊の青い瞳は

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 ビーシュは空腹の胃に珈琲を流し、暖められた吐息を白く曇らせた。  もう少し、自分らしく生きればいいのにと言う人もいる。ビーシュとしては、それなりに自分の好きなように生きていると思っているのだが、どうしてか強くは否定できない。  曖昧に笑って、いつも無難にやり過ごすばかりだった。 「軍の仕事はさほどはいっていないから、内職に時間を使えるかなぁ」  義足用の工具を作業台の端において、ビーシュは鍵のついた引き出しを開けた。  中には、宝石商から安価で譲りうけた原石が保管されている。すべて、趣味で作る宝石の義眼のために仕入れたものだ。  決して多くはない給料をやりくりしながら、目当ての石を探しているうちに知り合った宝石商から、原石の加工をする代わりに、安価で宝石を購入している。 「あのひとの目……そうだな、やっぱりサファイアがいい。それも、とびきり綺麗なものだ」  引き出しの中にもサファイアはあるが、もっと透明度が高く、輝くような青が良かった。  すこし頑張らなければ、手が届きそうにもないが、時間だけはたっぷりとある。
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