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エリスの婚約が無くなった今、アーカム家を一身にささえるのはニルフだ。
独身を貫くとエリス自身が選んだ道を、いつか肯定できるようになっていたい。
「あら、彼女も連れずにデート?」
声も掛けずに目の前の席に座る女、エリスにニルフは手に持っていたカップを取り落としそうになった。
「どうして?」
思わず、うわずった声になってニルフは口元を押さえて軽くもんだ。動揺して、痛い腹を突かれるわけにはいかなかった。
「茶葉を買いに来たの。ここのカフェ、国外の良い茶葉も売っているのよね。おまけに、休憩がてらに紅茶もいただけるし、お気に入りの場所なの。警備員もいるから、安全だしね」
身なりの良いものでなければ、基本、入り口もくぐれない。たしかに、帝都の中でもっとも安全なカフェかもしれない。
「私よりニルフ、あなたよ。カフェで一人お茶だなんて、珍しいこと。私の知らないお嬢様とデートかしら?」
「浮気ではないですよ。たまには、一人でゆっくりカフェに入ったりもします」
普段は部屋に引きこもっているくせに、好奇心の強さは健在のようだ。
なんとかはぐらかそうとしているニルフだったが、階段から降りてくるエヴァンの姿を見つけ、思わず腰を浮かせていた。
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