五章 心と口と行いのなかに

6/49
前へ
/289ページ
次へ
「どうして、ビーシュ・スフォンフィールも一緒にいるんだ?」  着古したズボンと白衣姿ではなく、両脇を固める双子の男女と同じ漆黒のスーツを着ている。櫛を通しているのか怪しい茶色の髪も、綺麗に梳かれて後ろで一つにまとめられていた。  どうして、レオンハルトがあんな冴えない男に夢中になるのかわからなかったが、小綺麗に身なりを整えていると、どうしてだろう、そこいらを歩く女性よりもずっと視線が引き寄せられる。 「ビーシュ? もしかして、レオンの彼氏? どの彼かしら?」  あんまりな姉の発言に、ニルフは思わずテーブルを叩いていた。  驚いた店員が慌てて駆け寄ってくるのに、ニルフは詫びをかねて、気持ち多めの料金をテーブルに置いて席を立った。 「姉さんは、お茶を楽しんでいてください」 「ねえ、ニルフ。あなた、いったい何をしようとしているの?」  きゃんきゃんと噛みついてくる姿は、神経質な小型犬のようだ。気むずかしそうでいて、頭が回るからたちが悪い。 「姉さん、噂はご存じですか? 怪盗と名乗る若い男に、宝飾品が盗まれる事件です」     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

694人が本棚に入れています
本棚に追加