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「ええ、誰がどれを盗まれただの。まるで、怪盗に物を盗まれた自慢をしているようだったわ。お父様も、いつまでも落ち込んでないで参加すればよかったのに。なにせ、アーカム家が一番最初の被害者でしょう?」
エヴァンとビーシュはニルフたちに気付く様子はなく、フロントに鍵を預けてエントランスへと歩いて行く。
二人は肩が触れるほど寄り添って歩いているが、和やかな雰囲気はどこにもない。
隠しきれない不穏な空気を、エリスも感じ取ったのだろう。騒ぐのをやめて息を潜めていた。
「どうしてかしら、脅されているようにしか見えないわ」
「ええ、なにかおかしい気がします」
最初、二人の姿を見たときは、なんて破廉恥な男だろうと胸中で罵った。エリスとレオンハルトの間に割って入っただけでなく、さらにつるむ男がいたなんて、と。
隣にエリスがいなかったら、後先考えず殴り込んでいたかもしれない。
「ビーシュは、あの眼鏡の人ね。なるほど、レオンの言うようにかわいらしい人ね」
「久しぶりに外に出て、感性が麻痺しているんじゃあないですかね」
思わず、一瞬でも見惚れた自分が恥ずかしい。ニルフは目を爛々と輝かせてビーシュを視線で追うエリスにしっし、と手を振った。
「とにかく、姉さんはここにいて――」
「追いかけるのね、行きましょう。普段は引きこもりだけれど、武術には心得があるから大丈夫」
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