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昨日の今日だ。
愛想を尽かされたとは思えない。
自宅にはずっと戻ってはおらず、軍病院の工房にも姿がない。
ビーシュの様子をみにやって来ていた同僚の青年装具技師のフィンも、行方を気にしていた。
「何も残さずに、いなくなる人ではないのですが」
不安げに表情を曇らせるフィンは、作業途中の義足を抱え、逆にレオンハルトになにか心当たりはないかと問いかけてきた。
「僕のほうこそ、知りたいよ」
気が利いた言葉も見つからず、早々に軍病院から出たレオンハルトは、乗合馬車で街に戻り、さて、どこに行けば良いかと途方に暮れて立ち尽くしていた。
ビーシュと話し合うようになったのは、ここ数日だ。
とりとめない話ですら楽しくて仕方ない時期に、互いを探るような話題はあまりのぼらない。
ビーシュが行きそうな、心当たりのある場所と言えば、今日、一緒に飲むと約束した珈琲豆を手に入れたレクト珈琲店くらいだった。
「いるとは思えないけれど、なにか手がかりはつかめるかもしれない」
レオンハルトは軍服を翻し、昼過ぎの街を進む。
周囲の浮きだった雰囲気とは相反する、古めかしい店構え。
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