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帝都は広い。見当もつけずに歩き回ったところで、自己満足にすらならないだろう。
「なんて、苦しいんだろう。姿が見えないだけで不安になるなんて、初めてで」
レオンハルトはカウンターに手をついて、項垂れる。幸福な気持ちだけがすべてと思っていたが、幼稚な考えだったのだと打ちのめされる。
「……なるほど。場合によっては、放置できなさそうな状況かもしれないな」
薄い無精髭を撫でて、エフレムはほかに客のいない店内を見回した。
「ビーシュの思い人はエヴァン・ロナードだと思っていたんだが、違ったようで少しほっとしている。単に、個人的にあまり好きでない人物ってだけの理由ではあるがね」
胸元を探り、煙草を出そうとして店主に視線で咎められ、エフレムは代わりにポケットから紙に包まれた飴を取り出して口に放りこんだ。
「エヴァン・ロナード。僕は直接会ったことはありませんが、金鉱脈を所有する富豪で宝飾品の収集家ですね。彼は、ビーシュと関係を持っているのですか?」
「ビーシュが、どんなことをして生きてきたのか、オスカー君は知っている?」
レオンハルトは、頷いた。
「だからなんだ、って顔だな」
「気にしませんよ、続けてください」
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