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今まで誰と関係を持ってきたかまでは知らないし、問う気もない。今、これから側にいてくれるだけでいいのだから。
「俺は、諜報部とちょっと接点があってな。座っていても、いろんな噂が転がり込んでくる立場にある」
エフレムが目配せをするまでもなく、店主がカウンターを出てドアに下がっていた開店の表示を裏返した。
よくよく見れば、片足が義足だ。退役軍人だろうか。だとしたら、彼もビーシュを知る人物であるかもしれない。
「私は、レクトです。ビーシュ先生には退役後もたびたびお世話になっています」
レクトは軽く頭を下げて「珈琲を入れましょう」とサイフォンの並ぶカウンターに戻った。
「なぜ、俺がビーシュの思い人がエヴァンであると思っていたか、だが。たんに、娼館街で一緒にいるって話をよく耳にしたからだよ。エヴァンはもとより、ビーシュは娼館街では金をもらえて良い思いもできるって、悪い方向で有名だからな」
ビーシュとの会話で知ってはいたが、改めて他人の口から聞くと、ふつふつと静かな苛立ちがこみ上げてくる。
「ビーシュに失望したか?」
まさか。レオンハルトは黒髪を振り乱して首を振った。
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