一章 矢車菊の青い瞳は

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「で、バロウズくんは何を売り込みにきたのだい? 私が誰であるか知って、声をかけているのだろうから、期待してもいいんだろうね」 「ええ、それはもう」  にんまりと得意げにほほえむエーギルは、高級感漂う革張りの椅子に窮屈げに体を埋めて左手に提げていた鞄をテーブルに置いた。 「ぜひとも、ロナード様のお部屋でお見せしたい代物なのですが」 「ここでいいよ。人の物を取って盗むような輩はいない場所だ」 「はあ、でしたらここで」  ごねて商談を逃すよりはと、不満げな様子ではあったが、エーギルは上着のポケットから鍵を取り出した。  金色の小さい鍵は細かい作りが施され、芸術品としてみても良いほどに美しかった。節くれ立った男の手の内にあるのが、もったいないと残念に思うほどに。  とはいえ、人の物を奪うわけにもゆかない。期待半分といった面持ちで、エヴァンは黙って解錠されるのを待つ。    エヴァンは帝都から東に行ったベゼルという名の商業都市に居を構える、貴族階級の人間だ。  先祖代々から受け継ぐ広大な土地のなかからエヴァンは金の鉱脈を探り当て、一気に社交界に躍り出た有力人物だった。  五十に近い年齢だが、外見は相対して座るエーギルよりもよっぽど若々しく見える。 「かねてより、メルビスの宝飾をお集めになっていると聞きまして」     
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