一章 矢車菊の青い瞳は

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 高揚とする心を静めるには、洒落たバーでは心許ない。  主の悪い癖を知り尽くしているサティは表情を少しも変えず、供を連れずに出て行く姿すら見送らない。  きっちりと、きっちりしすぎてすこしばかり面白みには欠けるが、秘書として側に置くにはサティは優秀な女性だった。  商人としては心許ない、緩みきった顔をしたエーギルではあるが、噂ではかなりあくどい面も聞いている。  とはいえ、自分が出るほどの大物ではない。サティに任せておけば、うまく商談をまとめてくれるだろう。 「今日は、祝杯としゃれ込むかな。ようやく、しっぽをつかんだよ」  肩越しにエーギルを見やり、エヴァンは悠々とした足取りで夜の街に出て行った。
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