一章 矢車菊の青い瞳は

28/51
前へ
/289ページ
次へ
「悪いね、送ってもらっちゃって」  エリスは気にしないで、と首を振った。  迎えにきたニルフにつれられ、遅い昼食をとり、久しぶりの帝都をゆっくりと見て回った。遠征から帰ってきたばかりで疲労はたまっていたが、実に有意義な休日だった。 「あなたも、相変わらず子供の時のままね。いえ、むしろ大人びた子供だったんだわ、私たち。ようやく、見た目が追いついてきたのね」  エリス・アーカムは、きらびやかなドレスではなく、しっかりとした生地の、作業着めいた衣服のほうが似合う女性だ。本人にも自覚があるようで、小さな頃から男のような格好を好んでしていた。  化粧をして着飾れば、どんな男をも黙らせてしまう美貌はたしかなのに、男勝りの気質のせいだろうか。  豊かなブルネットの髪にはカールが掛かり、肩の位置でくるくると奔放にはねている様は女性的で、街頭の白すぎる光を浴びて硬質的に輝く様は妖艶な美しさも感じさせた。  なのに、どこか勇ましい。  コートの下に銀色の鎧を着込み、このまま戦場へと飛び出してゆきそうだ。     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加