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眉をひそめるビーシュに、エフレムはグラスをチン、と鳴らして名乗った。
「買った男に、特別な感情がないなら……俺と過ごしてみないかな? 望むのなら抱いてもいいが」
「えっ、でも……約束、しているから」
「いくらで買ったんだ?」
迷うそぶりを見抜き、エフレムはビーシュに近づいた。
もう一度問いかけると、ビーシュは指を二つ立てた。
(……やすいな)
自分に価値を見いだせないビーシュを憐れに思い、同時に価値を与えない待ち合わせの男のだらしなさに腹が立つ。
「マスター、頼みがある」
グラスの中身を飲み干し、エフレムは呼びつけたマスターに紙幣を握らせた。
「こいつの待ち人がきたら、そいつを渡して欲しい」
「……これは、気前がよろしい」
「妥当な評価さ。ビーシュ・スフォンフィールだったな? 今宵の時間は俺が買い付けた」
どうすればいいのか、オロオロしているビーシュにエフレムはやれやれと大きく息をついて、手を取り、椅子から立ち上がらせた。
「……あ、あのっ、エフレムさんのような綺麗な人となんて、僕じゃ……もったいないですよ?」
遠慮しているのか気恥ずかしいのか、頬を赤らめてうつむくビーシュだったが、手を振り払おうとしなかった。
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