一章 矢車菊の青い瞳は

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 ニルフの言い分には一理あるが、仕方がないと割り切ってもらうしかない。 「本当に、いいのかい?」 「レオンとの婚約のこと?」  頷くと、エリスは肩をすくめて後ろ頭を掻いた。  おしとやかさなどみじんもない仕草だが、自然体のエリスはどんなときよりも魅力的だと思う。  思うからこそ、男女の感情をもてないことが残念に思えた。  エリスは幼なじみで、誰よりも頼りになる友人だ。それ以上でも、それ以下でもない。 「愛のない結婚でも、君は大丈夫なのかい?」 「はっきりいうのね、レオン。ニルフが聞いていたら、泡を吹いて倒れていたわ」  案の定、エリスは憤慨することなく自然に笑って受け流した。 「せめて、殴りかかるくらいはしてほしいものだけどね」 「無理よ、あの子ああ見えてレオンを尊敬しているんだから」  ふたり、顔をつきあわせて笑い合う。子供の頃と、全く同じ関係は心地よささえある。 「愛がないからこそ、貴方ならうまくいくんじゃないかなって思ったの。そうでしょ、レオン」  レオンがお見通しだったように、エリスもまた、お見通しだったようだ。 「仲の良い友人同士は、傍目から見れば最良の夫婦なのかもしれないね」     
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