690人が本棚に入れています
本棚に追加
ニルフの言い分には一理あるが、仕方がないと割り切ってもらうしかない。
「本当に、いいのかい?」
「レオンとの婚約のこと?」
頷くと、エリスは肩をすくめて後ろ頭を掻いた。
おしとやかさなどみじんもない仕草だが、自然体のエリスはどんなときよりも魅力的だと思う。
思うからこそ、男女の感情をもてないことが残念に思えた。
エリスは幼なじみで、誰よりも頼りになる友人だ。それ以上でも、それ以下でもない。
「愛のない結婚でも、君は大丈夫なのかい?」
「はっきりいうのね、レオン。ニルフが聞いていたら、泡を吹いて倒れていたわ」
案の定、エリスは憤慨することなく自然に笑って受け流した。
「せめて、殴りかかるくらいはしてほしいものだけどね」
「無理よ、あの子ああ見えてレオンを尊敬しているんだから」
ふたり、顔をつきあわせて笑い合う。子供の頃と、全く同じ関係は心地よささえある。
「愛がないからこそ、貴方ならうまくいくんじゃないかなって思ったの。そうでしょ、レオン」
レオンがお見通しだったように、エリスもまた、お見通しだったようだ。
「仲の良い友人同士は、傍目から見れば最良の夫婦なのかもしれないね」
最初のコメントを投稿しよう!