一章 矢車菊の青い瞳は

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 同意して頷くと、エリスはブルネットの髪を掻き上げた。レオンから視線を外し、星が瞬く夜空を見上げた。 「ニルフが乗り気でも、私たちはまだ、婚約しただけだわ。結婚にまでいくにはまだ、時間が掛かるでしょう。私たちの間には、覚悟なんていらないけれど、もし、本当に愛したい人が現れたらその時は……わたしに、ちゃんと紹介してね」  はっきりとした物言いが魅力であるエリスが、ここにきて初めて言葉を濁した。  最良とは思えても、迷いがないわけではなさそうだ。 「ごめんなさい、久しぶりに顔を合わせて早々にする話題じゃなかったわね。半年ぶりの、戦地からの帰還なんだから、無事をご両親に報告して親孝行でもしてやりなさい」  じゃあね。とエリスは右手を振って、背を向けた。  馬がいななきをあげ、馬車が動き出すまで見送って、レオンは重い荷物を再び背負って門をくぐった。
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