一章 矢車菊の青い瞳は

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 アルコールに当てられた様子もない顔のエヴァンが、空になったグラスをカウンターに置くと、すぐさま、レイが新しいものと交換した。 「成り上がりの貴族みたいなものだよ。金鉱脈の採掘を生業としていてね、帝都には息抜きと趣味をかねて来たんだ。帝都は大陸の中心部だからね、様々な品物が集まり、流れてゆく。私は、美しい宝飾品を求めてあちこちをいったりきたりだ」  ルビーの指輪をハンカチ包んで上着にしまい、エヴァンはナッツを摘まんだ。 「私は、こういた細工の良い宝飾のたぐいが好きでね。身につける機会は少ないが、どうしても手元に置きたくなってしかたがない。気に入るとすぐに手を出してしまうから、よく、身の回りの世話をしてくれている秘書に叱られているんだ」  からからと笑う顔は親しみやすく、ビーシュの知る貴族とは、少しばかり様子が違うように思えた。知らず、肩に入っていた力を抜いて、皿に残っていた葉物野菜をむしって口に放り込んだ。  エヴァンは自分を茶化すようにただの金持ちと言ったが、実際は相当の金持ちなのだろう。  貴族と繋がりのあるフィンに話したら、腰を抜かす相手なのかもしれない。  粗相はしていないだろうか、少し不安にもなるが今更だろう。 「スフォンフィール君」  耳元に掛かる吐息が熱く感じるのは、アルコールのせいだろうか。     
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