一章 矢車菊の青い瞳は

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 火照る頬を隠すこともできないまま、ビーシュは確かめるようにエヴァンを見つめ、気恥ずかしさに再度うつむいた。  どういった店なのか、エヴァンは知っているようだった。ビーシュの腰をなでる左腕は、誘うように、時折、足の合間をなでてくる。  男にも女にも困らなさそうなのに、ずいぶんと変わりもののようだ。  さっきはレイとルイに助けを求めたが、今は彼らが気を回して背を向けてくれているのだとわかった。 「嫌がってくれないと、もっと私は君をもとめてしまうよ?」  誘われると、否とはいえない。  ぼんやりとしていても、心と体は常に人肌を求めて飢えていた。それこそ、誰でも良い。  だから、金を積むのだ。  漏れるため息に混じる熱を、エヴァンは敏感にくみ取とって、さらに体を密着させてくる。  「逸材とか、そんな大げさな言葉は似合いません。ぼくはただの装具技師で、宝石はほんとうに……趣味、なの……で」 「今の仕事に、思い入れがあるのかい? たしかに、人のためになる、重要な仕事ではある。やりがいもあるだろうが――いま、君は満たされているのかな?」  腰を抱いていた手が体の線をなぞり、肩に回される。たいした抵抗もできず、ビーシュはそのまま引き寄せられた。  服ごしに触れる体温に、心音がとくとくと早鐘を打つ。  満たされているのか。     
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