一章 矢車菊の青い瞳は

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「コーエンを探していたようだが、彼に何の用があったのかい? もしかしたら、私が君の力になれるかもしれないよ。彼とは、比較的良好な取引をしていてね。多少の無理なら、口もきけるだろう」 「エヴァン様は、コーエンさんのお客様なんですか?」 「彼とは、何度か取引をしたことがある。宝飾品を買ったり、宝石をやりとりしたりとね。派手な商売はしないが、好感が持てるし、何より信頼できる商人の一人だ。とても貴重な存在だよ」  からん、と氷が溶ける。  あまり口をつけられないでいた橙色のカクテルに、水の層がうっすらとできていた。 「サファイアが……ほしくて」  青い、深く青い石。  手持ちの石も決して質は悪くないが、望むほどの鮮やかさはない。  馬車の停留所で出会った青年を脳裏に思い浮かべ、ビーシュはぎゅっとポケットの中にある義眼を握りしめた。 「でも、よくよく考えてみれば、ぼくの手持ちでは簡単に買えないかもしれないです。コーエンさんはとてもよくしてくれますが、商談となればさすがに別でしょうし」 「……サファイアか」  宝飾を、それこそ趣味で買いあさるほどの財力があるエヴァンからすれば、かわいい悩みなのかもしれない。  ある程度の代物で妥協しても、コーエンから研磨の仕事をいくつか引き受けなければ買えないだろう。 「ちょうど、良い石を持っていると言ったら……どうする?」  悪魔のような、蠱惑的なささやきだった。     
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