一章 矢車菊の青い瞳は

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 服を脱ぎながら、ビーシュが「ごめんなさい」と謝れば、同じように上着を抜きつつ、エヴァンは不思議そうな顔をした。 「どうして、謝るんだい? 私と寝るのが嫌なら、言ってくれてかまわないよ。断られたからって気を曲げるほど、安い男ではないよ。ゆっくりと、ワインを飲みながら語り合うのも、悪くはない。そういう付き合いでも、満足はできるよ」  ビーシュは首を振る。エヴァンが連れてきた高級宿があまりのも場違いすぎて、申し訳なくなってきたなんて、言えるわけもない。 「どうしたのかな? もしかして、眠くなってきたかい?」  うまくボタンを外せないでいるビーシュを笑い、エヴァンは脱いだシャツを肩にかけたまま手を伸ばし、ピアノを弾くように軽快に外していった。  あまりにも手慣れているので、ビーシュはエヴァンに全てを預け、室内を宿をきょろきょろと見回した。  安宿と違い、分厚く作られた壁と壁紙は外気をきっちりと遮断し、暖房で暖められた空気は素肌でも震えず、ちょうど良い室温を保っていた。 「風邪を引かないですみますね、軍の工房も頑丈な作りですけど、どうしてもすきま風で体調を崩すときがあるんです」     
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