一章 矢車菊の青い瞳は

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 華美ではないが、豪華な内装。エヴァンによく似合っているように思えた。 「細い体だ、きちんと食べているのかね?」  ぼんやりと、ルビーの指輪をはめた指を見ていたビーシュは、するりと落ちる衣服の音に、まぶたを瞬かせた。いつのまにか、全裸になっていた。 「手持ちによって、食べたり食べなかったり。もともと食は細いほうでして、困ってはいないんですけど。……すみません、抱き心地はあまりよくないかも」 「かまわないよ。絹のような肌は、触っていてとても心地良い」  エヴァンの黒い光彩のかにぼんやりと浮かび上がる己の白い裸身を見て、ビーシュは今更ながらに戸惑う。 「今日はぼく、手持ちがなくて」  若い男ならいざ知らず、ビーシュは四十二の壮年に足が掛かる年齢だ。いつも抱かれるときは、金を払っていた。 「抱いてもらう代わりに、差し上げられるものが……なくて」  口ごもり、目をそらす。  今、持っている中で一番価値があるものはポケットの宝石義眼だが、宝石としての価値はさほど高くなく、エヴァンの肥えた目を満足させられないだろう。もしかしたら、失望されるかもしれない。 「対価がないと、体を重ねられないのかい? ほんのひとときの戯れだとしても?」  エヴァンは大きな手で、ビーシュの髪を撫でた。     
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