一章 矢車菊の青い瞳は

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 冬空の帝都の空は、青く高い。  遠征先の草原地帯とはまた違った趣の空を見上げて、レオンハルト・オスカーは長旅にこわばった背中を思い切り伸ばした。 「ずいぶんと、疲れた顔をしているなオスカー。おまえ、休暇の申請が出ていないが、いいのか?」  声をかけてきたのは、遠征先で隊長をつとめていたルノア・ノリス大佐だ。短く刈り上げた髪と無骨な造作は、まさに武官といった様子だ。  貴族出身の、見た目からしてぼんぼんとしたレオンハルトとは全くもって正反対の人種ではあるが、誰に対しても偏見を挟まない気さくなノリスは、最良の上司だった。 「必要な書類を仕上げるまで、まとまった休暇は取れません。さすがに、今日、明日は親族への挨拶をしなくてはなりませんので、休暇をいただきますがね」 「書類ぐらい、部下に押しつけてしまえ。婚約者が首を長くして待っているんだろう? そのまま、長期休暇も申請していしまえばいいのに」  荷台から降ろされた積み荷を受け取りながら、レオンハルトはノリスの言う婚約者の顔を脳裏に思い浮かべ、軽く吹き出した。     
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