一章 矢車菊の青い瞳は

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 節くれ立った手が、立ち上がりはじめた中心を優しく包み、しごきだす。性感を促す愛撫なんて、どれくらいぶりだろう。  ビーシュはエヴァンの愛撫に喘ぎ、広い背中に両腕を回した。  振り払われることはなく、むしろもっとおいでと引き寄せられ、密着した胸を他人の心音がとくとくと穿った。 (あぁ、気持ち……いい、な)  店で買う男たちは皆、衝動をむさぼるだけでむさぼって、いつもビーシュを抱きつぶし、捨ててゆく。  愛して欲しいとまでは言わないが、せめて少しの間は夢を見させて欲しかった。そのために、多くのものを犠牲にしてきた。 「さあ、君をじっくりと味合わせてくれ。サファイアと等価であると、私に教えておくれ」  汗で額に張り付いた前髪を払い、ちゅ、と音を立ててキスをしたエヴァンに驚いて、ビーシュは反射的に頷き、すぐさま赤面した。  宝石と釣り合うなんて、思えない。  思えないが、望まれるならば応えるしかないだろう。 「がんばります」   気恥ずかしさをどうにか押さえつけて絞り出した台詞もいまいちで、どうしたら良いかわからなくなって、視線を夜の街並みが広がる窓硝子へとやった。 「期待しているよ。とびきりのご褒美を、見せてあげよう」  なにもかもが、いつもと違う。     
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