二章 真実の口

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 昔は、今よりもずっと多くの戦があった。現在の帝都の繁栄は、侵略と略奪、多くの死によって築き上げられた代物だ。美しい街並みに隠されていて、容易にはわからないが。  ろくな設備も知識も乏しい状況で、人生の殆どを患者とともに過ごした祖父は、恐ろしい人ではあったものの、同業者としては尊敬に値する人物だった。  年老い、一線を退いた祖父は家族と住もうとせず、独り、郊外の農村で余生を過ごしていた。  両親に捨てられ、行き場をなくしたビーシュが転がり込んでくるまでは、平和な老いを噛みしめていたのかもしれない。 「だめだね、喋っていないと考えすぎてしまう。ぼくの、悪い癖だよ」  ひとりになると、思考が迷子になる。たのしい記憶ばかりをちりばめられていたらいいが、思い出す物事の大抵は散々な過去だった。ひどく気が滅入るとわかっているのに、止められないのだ。  普段はなけなしの理性でもって考えないように努めているが、ふと気が緩むとすぐにかさぶたをかきむしっている。  ビーシュは気持ちを切り替えようと席を立ち、ゆっくりとした足取りでキッチンへ向かった。 「さすがに二日続けてだと、体が痛いなぁ。ぼくも、歳だよね。エヴァンさんはよく、平気だなぁ。ぼくより年上なのに、とても元気なんだもの」  ビーシュは重くてだるい腰をとんとんとたたき、苦笑を零す。     
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