二章 真実の口

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2  結局、昼を告げる鐘の音がなるまで、ビーシュは作業に没頭していた。  研磨作業は一息ついたところなので、気持ちよく席を離れられる。 「お腹が空いてきちゃったな」  昼食をうっかり食べ損ねるのは日常茶飯事で、普段からあまり食べないせいかおざなりになりがちだが、エヴァンと会う夜は必然とまともな食事を取るようになり、それなりに胃が広がったようだ。  珍しく、ぐう。と鳴る腹の虫を宥めるよう腹を撫で、ビーシュはせっかくなので軍病院内の食堂に行くことにした。  中身の入った財布を白衣のポケットに突っ込み、研磨の終わったサファイアを反対側のポケットにそっと入れて席を立つ。  外出中の札をドアに引っかけ、戸締まりを確認したビーシュは、階段を上って一階に出て、軍病院の中央にある中庭をとてとてと突っ切って進んだ。  職員や医師だけでなく、一般の人も利用する食堂なので、鐘が鳴る前に並んでいないと、席が空くまで立ち尽くすはめになるほど、混み合う。  人混みに囲まれるのは大の苦手でなので、いつも時間を外して行こうと思い、そのまま、別の作業に没頭して食いっぱぐれる。結局、昼夜兼用といった食生活が基本だ。     
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