二章 真実の口

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 申し出はありがたく頂戴したいところではあるが、事情をつかめていない周囲の人たちは明らかに不満そうな顔をしていた。  女性はかまわないと言いそうだが、親切な人が恨まれるのはビーシュのほうが面白くおもわない。 「声をかけてくださって、ありがとうございます。はやく、良くなるといいですね」  団体客が出て行ったのか、列の進みが一気に早くなり、戸惑う女性は気まずそうな顔のまま注文口のほうへと押し流されていった。 「やれやれ、どうしようかな」  食堂が落ち着く頃合いを見計らって、出直すべきだろうか。 「めんどうくさい、なんて言ったらフィンくんに怒られてしまうかなぁ」  腹は減っている。  けれど、元から食については無頓着だった。  工房にビスケットの缶でもなかっただろうか、ひとかけでも口にいれてしまえば、空腹感は満たされてしまうだろう。  ビーシュは邪魔にならないよう食堂を出て、中庭まで戻った。 「最終手段は珈琲だけど、さすがに駄目だよねぇ」  冬の初めの中庭は、ちらほらと控えめな花弁を持つ花が開いている。  中央にある東屋は、食後の腹ごなしをしている医師たちに譲り、ビーシュは常緑樹の木の下に置かれているベンチに座った。  風はひんやりとしているが、差し込んでくる日差しはぽかぽかと暖かく、まどろむにはちょうど良い気持ちよさだ。     
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