二章 真実の口

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「どうしたの?お昼も食べずにお昼寝かな」 「……えっ?」と、顔を上げたビーシュは、明るい日差しを背にして覗き込んでくる青い瞳に、ぽかんと口を開いた。 「お久しぶり。と、言っても、覚えてくれているかな?」  ビーシュは驚いた拍子に鼻からずれ落ちた眼鏡を持ち上げ、頷いた。  何度も、何度も頷くビーシュを、青年はうれしそうに微笑んで受け止めてくれた。 「数日前、軍部の前にある乗合馬車の停留所で、ぼくの落とし物を拾ってくれたよね。ありがとう」 「偶然だよ。それに、ただ拾っただけだしね。そんなに一生懸命、お礼をいわれるようなものじゃない」 「隣、いいかな?」と、視線でベンチを指す青年に、ビーシュは慌てて頷き、腰を浮かして一人分の空きを作った。 「僕は、レオンハルト・オスカー。あなたは? 軍医のようだけど」  真昼の明るい日差しの中で、きらきらと輝くサファイアブルー。  拳一つ分の間をあけて隣に座ったレオンハルトの魅惑的な目に見つめられ、ビーシュは言葉を失い、息継ぎを忘れた。 「やっぱり、綺麗だ」 「僕の何が、あなたの心を捕らえているのだろう? 知りたいな」  くす、と。笑い声に、ビーシュは我に返って口を押さえ、赤面した。「ごめんなさい」と背中を向ける。     
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