二章 真実の口

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 一対のサファイアブルーに見つめられ、息が詰まり、呼吸がぜいぜいと荒くなる。  どうしてだろう。  自分でも、理解しきれていない。  数少ない出会いの中で、印象に残った瞳を模してビーシュは義眼を作る。  忘れないように、色あせてしまわないように、宝石にわずかな望みを託して磨き上げる。  昨日、不覚にも落として傷をつけたペリドットは、逢い引き宿の従業員のものだ。時折、朝食の後に優しく慰めてくれた彼は、仕事を新しくしてから会う機会はなくなってしまった。 「目が……とても、綺麗で」  おかしなことを言っている。ビーシュは消え入る声でぼそぼそと、白状した。  レオンハルトの瞳は、宝石のように美しい。  上質の、サファイア。  いま、ポケットの中にあるサファイアでは、やはり釣り合いそうにない。 「僕の目が、好きなの?」  確信犯のような、自信に満ちたレオンハルトの表情に、ビーシュはくらくらと目眩を覚えた。  言葉を考える前に、頷いていた。  感情が乗ると、人の瞳は宝石以上の美しさを放つ。どんなに丹精込めて研磨しても、模倣できない美だった。 「す……好き、です。とても、綺麗なサファイアの目をしてる」  恥ずかしさのあまり、ビーシュは両手で頬を覆ってうつむいた。     
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