二章 真実の口

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「ありがとう、嬉しいよ。顔についてはよく好意的な返答をもらっているけれど、目を言及したのはビーシュが初めてだ」  たがいに名前しか知らない相手に、なんて素っ頓狂な告白をしているのだろう。  あきれられるのならばまだ、わかる。しかし、レオンハルトは興味深げに、ビーシュの挙動をじっと見ている。  どうしよう。  どうしたら、良いんだろう。  ビーシュは肩越しに振り返り、レオンハルトの様子を伺う。 「あの、オスカーくん」 「レオン。ビーシュも僕の名前を気兼ねなく呼んでくれると、嬉しいな」  どちらが年上なのか、だんだんわからなくなってくる。  緊張をほぐすよう背中を撫でるレオンハルトの手に、ビーシュは無意識に体を預けながらも、逃げれば良いのか受け入れても良いのかわからなくなって助けを求めて視線を泳がせた。  むろん、かみ合う視線はなく、人々は午後の休憩にいそしんでいた。目が合ったら合ったで、困るが。 「僕は、ビーシュを困らせたいわけじゃないんだよ。知りたいんだ、ビーシュのこと」  離れる手を追いかけるよう、振り返ったビーシュは柔らかい物腰からは想像つかない強い力で引き寄せられ、目を白黒させた。  ここは軍病院で、真っ昼間の中庭だ。夜の歓楽街ではない。 「だめだよ、レオンくん」     
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