二章 真実の口

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 一回りほど体格の大きいレオンハルトに、ビーシュはすっぽりと抱き込まれた。  建物に囲まれているので外よりもずっと暖かいが、冬場の空気だ。  白衣しかまとっていないビーシュは、レオンハルトの暖かさに、ぎゅっと己の胸元をつかんだ。  浅はかな体は、すぐに期待してしまう。  早鐘を打つ心臓が恥ずかしくて、痛い。  気付かれていなければいいが、レオンハルトの表情は柔らかいくせに真意が読み取りにくい。強すぎる視線を間近から浴びて、くらくらと目眩がするようだ。 「おかしく思われてしまうよ。だめだよ」  もぞもぞと身じろぐが、さすが軍人。腕の力が強くて、拘束から抜け出せない。  ビーシュはレオンハルトの腕の中で、自分を知る医師が通りがからないか、そわそわと視線を泳がす。 「どうして、おかしく思われるのかな?」 「それは……ぼくが、おかしいからだよ。レオンくんまで、変に思われるから……その、離れて、ね?」  しっかりと抱きしめてくる腕を引きはがすよう押すが、びくともしない。  夜な夜な、歓楽街をふらふらしているビーシュの悪癖は、面と向かって言う者こそ少ないが、周知の事実でもある。  院内で関係を持った医師も、少なくはない。     
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