二章 真実の口

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 同性との交際に比較的寛容ではある社会情勢であっても、だからといって相手をとっかえひっかえしている行為は、決して良くは思われなかった。  ビーシュが孤立しているのには、理由がある。  だんだん申し訳なくなってきて、ビーシュはレオンハルトの腕の中で、できるだけ小さくなろうと縮こまる。顔をうつむかせ、少しでも周囲にばれないようにとつとめた。無駄な努力では、あるだろうが。 「僕は、他人にどう思われようと全然かまわないんだけどね。ビーシュがこんなに困ってしまうなら、従おう」  離れる体に名残惜しさを感じて、同時に浅ましさを覚えて恥ずかしさに、唇を噛みしめた。 「レオンくんは、誰かのお見舞いにきたの?」  軍人でごった返ししていた乗合馬車の停留所にいたのだから、遠征から帝都へ戻ってきた軍人なのだろう。  よくよく見ると、すこし日に焼けた肌をしていた。 「うん、そうだよ。もうしばらく入院する必要があるみたいだけど、元気そうで良かった」 「うん、元気なのはとてもいいね。ここの先生たちはみんな、場数を踏んでいるし、腕がいい人たちばかりだからすぐに良くなるよ」  冷たい風のおかげで、ほてっていた体温がだいぶ落ち着いてきた。 「また、レオンくんに会えるとは思わなかったよ」     
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