690人が本棚に入れています
本棚に追加
軍部と軍病院は並立されているが、軍人が病院に赴くことはあっても、逆は早々ない。会えたら良いなとは思っていたが、期待はしていなかった。
ビーシュは深呼吸をしつつ、レオンハルトの目をちらちらと見上げた。
同時に、脳裏にちらつくのは、エヴァンが見せてくれたサファイアの原石だった。
頑張れば手が届くくらいの石でいいだなんて、どうして思ったのだろう。逆立ちしても手の届かない品質の良いものでなければ、とても釣り合いそうにない。
「ねえ、ビーシュ。午後の予定はあるかい?」
「予定は……義足の調整をしなくちゃいけないんだ」
「急ぎのお仕事かな?」
少し考えてから、ビーシュは首を横に振った。
レオンハルトは、嬉しそうに微笑んだ。つられて微笑むと、暖かい手のひらがそっと頬を撫でていった。
「よければ、外に出て遅めの昼食をとらないかい? もっと、ビーシュのことを僕に教えて欲しいんだ」
「どうして、ぼくのことを知りたいの?」
差し出された手に、ビーシュはおそるおそる手を重ねた。
駄目だとおもっても、断り切れない。いい歳をした大人なのに、あたえられるものを選べない。
「気になるからだよ、ビーシュ。あまりにも君が僕をじっとみつめるものだから」
ぎゅっと重ねた手を握りしめられ、ビーシュは促されるまま立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!