二章 真実の口

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3  アーカム家の屋敷に、白塗りの馬車が蹄の音を高らかに響かせ、乗り入れてくる。  貴族が個人的に所有しているものではないが、富裕層に向けて貸し出しされている馬車は、とても細やかな意匠がなされていた。 「ロナード様。わざわざ、ご足労いただきありがとうございます」  馬車から降りたエヴァンを出迎えたのは、アーカム家の当主、デニス・アーカムだった。元軍人の男は、髪を白くさせても体格は隆々として立派だ。 「友人の娘が、婚約を決めたと噂に聞いてね。訪れないわけにもゆかぬだろう」  現役時代からデニスを知っているエヴァンは、衰えない友人の壮健さを喜び、差し出される手を強く握った。 「エリスのお相手は、あのオスカー家の末弟ときいたが?」 「ええ。幼い頃より、エリスだけでなくニルフの遊び相手をつとめていただきました。良縁でございましょう」  オスカー家と親しい交流はなかったが、代々、軍人を輩出している家柄で、二人の息子は重要な地位にいると聞いている。  同じ軍人であったデニスにしてみれば、満足いく縁談話だったろう。 「ご結婚は、いつ頃になりそうかい?」     
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