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メイドが運んできた紅茶の香りに、エヴァンは話を止めて手を伸ばした。ダイヤのような角砂糖を二つカップに落とし、銀のスプーンでかき混ぜる。
香り立つ匂いを楽しみながら一口すすれば、異国情緒を感じ、心が和む。
「たいへん、良い茶葉だ」
「エリスの見立てにてございます。お気に召しましたならば、おわけいたしましょう」
「ありがたい。遠慮なく、お願いしよう。一緒に飲みたい相手ができてね」
デニスは退出しようとしていたメイドを呼び止め、茶葉をエヴァンのために包むように命じ、腰を下ろした。
「エーギル・バロウズ。めざとい男ですが、いささか怖い物知らずとも思えます。ご旅行中のエヴァン様に商談を持ちかけるとは……宝石商としては、年数が浅いのやもしれませんな」
淡いピンク色の花が焼き付けられたカップを窮屈そうに摘まんで、デニスは一口で飲みきってしまった。
味のわからぬ男、というよりは、単に緊張しているからだろう。
エヴァンが所有する黄金はとにかく膨大で、尽きるところを知らない。財力だけで言えば、貴族ではなく国主といっても過言ではないだろう。
そのエヴァンが趣味の一環としている宝飾品集めは、莫大な財を投入してくるために市場を大いに混乱させる。
今の今まで無名作家だったメルビスが、その道の通の品物となったいったんは、エヴァンにある。
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