二章 真実の口

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 メイドが運んできた紅茶の香りに、エヴァンは話を止めて手を伸ばした。ダイヤのような角砂糖を二つカップに落とし、銀のスプーンでかき混ぜる。  香り立つ匂いを楽しみながら一口すすれば、異国情緒を感じ、心が和む。 「たいへん、良い茶葉だ」 「エリスの見立てにてございます。お気に召しましたならば、おわけいたしましょう」 「ありがたい。遠慮なく、お願いしよう。一緒に飲みたい相手ができてね」  デニスは退出しようとしていたメイドを呼び止め、茶葉をエヴァンのために包むように命じ、腰を下ろした。 「エーギル・バロウズ。めざとい男ですが、いささか怖い物知らずとも思えます。ご旅行中のエヴァン様に商談を持ちかけるとは……宝石商としては、年数が浅いのやもしれませんな」  淡いピンク色の花が焼き付けられたカップを窮屈そうに摘まんで、デニスは一口で飲みきってしまった。  味のわからぬ男、というよりは、単に緊張しているからだろう。  エヴァンが所有する黄金はとにかく膨大で、尽きるところを知らない。財力だけで言えば、貴族ではなく国主といっても過言ではないだろう。  そのエヴァンが趣味の一環としている宝飾品集めは、莫大な財を投入してくるために市場を大いに混乱させる。  今の今まで無名作家だったメルビスが、その道の通の品物となったいったんは、エヴァンにある。     
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