二章 真実の口

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 メルビスの作品に、金を惜しまず投資する成金がいる。金商人エヴァンのお眼鏡にかなえば、一攫千金も夢ではない。  権力と地位と財力を兼ね備えたエヴァンに媚びへつらう商人や貴族は、後を絶たない。 「まあ、いいさ。私用での旅行といえど、今更、一般人を気取れるとはおもってはいないよ。……で、そのバロウズ氏がアーカム家にもメルビスの作品を卸したと言っていてね。是非ともこの目で拝見させていただきたく思ったので、連絡させていただいた」 「ええ、いらっしゃるとは思っておりました。準備はできております。……ニルフ、ロナード様にティアラをお持ちしなさい」  扉のそばで控えていた青年が頷き、革張りの箱を両手に抱え歩み寄ってきた。 「ティアラ……というと、ご息女の婚礼のために用意なされたのかな」 「ええ、とはいえ。結婚式が済めば美術品、お話次第ではお譲りいたすことも可能でありますよ」 「なるほど」  打算が見え見えのデニスに、エヴァンは腹の底で笑った。 (この俺から、搾り取る算段か?)  メルビスの作品には、目がない。言い値で購入してしまうのを、秘書によく咎められている。  エヴァンにしては金を積めば簡単に黙らせられるのだから手っ取り早い方法なのだが、散財はするなと、何度も何度も秘書にはきつく据えられていた。     
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