二章 真実の口

27/55
前へ
/289ページ
次へ
4  夢心地な気分だった。  レオンハルトに誘われ、一人では行かないような洒落たカフェで食事をし、珈琲を飲んだ。  ビーシュのとりとめのない話のどこが気に入ったのか、レオンハルトは終始、興味深げに耳を傾け穏やかに相づちを打ってくれた。  とてもおいしい昼食だったように思える。食堂の列からはみ出たときは、どうしたものかと途方に暮れたが、逆に運が良かったとさえ思える。  久しぶりに、楽しいと心の底から思えた。  エヴァンとの密会は取引であるのが前提で、食事の楽しさも、すぐに続く夜の情事で全部塗りつぶされてしまう。  行きずりの男と寝るよりも、エヴァンは優しく、朝も一緒に過ごしてくれる。いい人だ。  いい人以上の関係には、どうしても踏み込めない。  エヴァンはやがて、帝都を去る人だ。いつまでも、後をついて歩くわけにはゆかない。  近すぎず、遠すぎず。距離を取るのが常であるのに、どうしてかレオンハルトにはずっと前から知り合いだったかのような、妙な距離の近さを感じていた。     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加