二章 真実の口

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 もとより警戒心は薄いほうではあったが、レオンハルトの前ではビーシュ自身驚くほど素のままの状態でいられる。緊張はするが、どこか心地のよいものだった。  迷惑をかけていないだろうか、気を遣わせているのではないか、そんな心配をする間もないほどに楽しかった。 「すごいね、いろんなものがある」  だからか、気持ちがふわふわと浮ついていて、気付けば二人きりで工房にいた。 「ここが、ビーシュの職場? まさに、職人って感じの部屋だね」  周囲をきょろきょろと見回しているレオンハルトの声に、ビーシュはそわそわと行ったり来たりを繰り返しながら、「そうだよ」と返した。  殺風景な工房を見て回ってなにが面白いのか、一年の大半をここで過ごすビーシュには理解できなかったが、レオンハルトは満足そうにうろうろ歩き回ってる。 (たのしいなら、いいのかな?)  カフェでゆるりと食事をし、公園で腹ごなしをしたあと、見たい絵があると言うレオンハルトに連れられ、ビーシュは初めて美術館に入った。  宝石を集めているので、宝飾には興味があるが、絵画はさっぱりで、初めて目にする緻密な芸術に思っていた以上に胸を打たれた。とても、素晴らしかった。  工房にレオンハルトを誘ったのは、ビーシュからだったように思う。     
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