一章 矢車菊の青い瞳は

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 エリスの秘めたる真意を問いただすほどの興味は抱かないが、特に断る理由がなかったのは双方一緒だったようだ。  意外なほどすんなりと、本人のいないうちに婚約話は進み、戦地で話を聞きつけた同僚たちに、いつ結婚するのかと茶化されるようにもなった。 「やれやれ、僕がもてはやされる立場になるなんて思ってもみなかった。結婚しても、しばらくはからかわれるんだろうかな」  女性との経験はいくつかあるが、どれもうまくいかず、うやむやのうちに関係が終わるのが常だった。  友人が言うには、のらりくらりとやり過ごすレオンハルトの性格が、女性にとって面白くなく、ひじょうにまずいらしい。  本気なのか、遊びなのかわからない。そう、言われた気もする。誰だったかはもう、顔も思い出せないが。  レオンハルトは軍の宿舎に戻る仲間と別れ、軍部の外にある乗り合い馬車の停留所を目指した。 「お帰りなさい、オスカー少尉」  混雑した停留所にたどり着くと、若々しい声に呼び止められた。  レオンハルトと同じように帰郷の途につく軍人たちの屈強な体を押しのけ、栗色の髪をした青年が駆け寄ってきた。 「久しぶりだね、ニルフ。しばらく会わないうちに、すっかり大きくなった。見違えたよ」     
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