二章 真実の口

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 共にいる時間が終わるのが嫌で、装具技師の仕事をしりたいと言うレオンハルトを工房に誘っていたのだ。 「もう、夜遅いけど、軍部に戻らなくていいの? お家には?」  レオンハルトへ向き直ると、しっかりと視線を合わせてくるサファイアの目に、ビーシュはカッと火照る頬を押さえて視線を外した。  客がいたカフェと違って、工房に人はいない。フィンは研修に行っているので、まだ帰ってはこない。  軍病院の地下へ一般人が入ることは基本的に禁止されているうえ、ビーシュの工房を訪れるような職員はさほどいない。おまけに、時刻は深夜に近い。 (あぁ、どうしよう。どうして、連れてきちゃったんだろう)  レオンハルトの吐息を感じるようで、ビーシュは己の衝動を抑えるように、ぎゅっと白衣の裾を握った。 「問題ないよ、年頃の女の子でもないしね。……ねえ、ビーシュ。君の義眼を見せてほしいな」  カフェで仕事の話をした後、ペリドットの義眼に話題が移った。  すっかり、というよりは一方的にレオンハルトに気を許していたビーシュは、趣味で義眼を作っていると告白した。  ペリドットのほかにも作品があると言えば、当然の流れで見せる話になったわけだが、今更ながらにビーシュは戸惑っていた。 (みせるだけ、みせるだけだから)     
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