二章 真実の口

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 胸に抱き込むようにして、ぴったりと寄り添って立つレオンハルトに、ビーシュはとっさに声が出せず、こくこくと頷くしかなかった。 「見ていいかい?」  頷くと、にゅっと背後からレオンハルトの両腕が伸びてきて、箱を持つビーシュの手に手が重なった。  驚いて顔を上げると「落としてしまいそうだから」とレオンハルトが微笑んだ。  間近で輝くサファイアブルーに、ビーシュは「ありがとう」と、自分でもよくわからない言葉を口走っていた。 「ビーシュはどうして、義眼をつくるの?」  箱に詰められた宝石義眼を眺め、レオンハルトは当然な質問をした。  医療目的でもない。  趣味で義眼を作っているなんて、常人では理解できないと顔をしかめるだろう。  こわごわと見やったレオンハルトの横顔は、好奇心できらきらと輝いている。案外、変わり者なのかもしれない。  そうおもうと、多少、緊張も抜ける。  ビーシュはレオンハルトに体重を預けるよう背中を寄せて、ルビーで作った宝石義眼を取り上げた。 「これは、ぼくにとって思い出の代わりなんだ。できるだけ忘れないように、その人の一番、印象にのこるものをって考えたら、宝石で目をつくることだった。……変だよねぇ」 「変わった趣味ではあるね。でも、とても綺麗だよ」     
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