二章 真実の口

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 お世辞でもなく、ごまかしでもなく。宝石義眼を見つめるレオンハルトの視線は真摯だった。  ビーシュは無条件に肯定されているような気分になって、再び口を開いた。声にはもう、震えは残っていない。 「これは、帝国の英雄のティアニー少佐の義眼を作ったときに取り寄せたルビーでつくったんだ」  帝国の花形の右目に埋まるものだからと、腰を抜かすほどの予算をもらったのを覚えている。  素材を吟味するために、ルビーをいくつか取り寄せ、最上の石をを英雄につかい、残りをくすねた。  ばれたら当然、免職ものだが、幸いにも、今の今まで誰かに気付かれてはいない。  ビーシュが所有する宝石のなかで、ルビーの義眼が一番高いものだろう。 「ほかの目は、誰なんだい?」  箱を再び棚に戻し、ビーシュは少し間を置いてから「友達とか、お世話になった人……かな」と口ごもりながら答える。  嘘ではないが、本当でもない。  まさか、夜をともにした男たちもまじっているとは言えない。  軍病院の外から来たレオンハルトは、ビーシュの夜遊びを知らないはずだ。ならば、わざわざ言う必要はないだろう。普通の友人でいられそうならば、友人として接するべきだ。     
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