二章 真実の口

33/55
前へ
/289ページ
次へ
 一歩、踏み出して関係を崩してしまう愚行は、もう痛いほど若い頃に経験していた。悲しい思いをするくらいなら、知らないほうがずっといい。 「……本当に?」  小首をかしげるレオンハルトに、ビーシュはぽかんと口を開けた。 「ほんとう、だよ」  震え出す声に、ビーシュはぎゅっと拳を握る。  知っているのだろうか? ゆっくいと近づいてくるサファイアの双眼は、何を考えているのかちっともわからない。 「ねえ、ビーシュ。ビーシュはどうして義眼をつくるんだい? 思い出が欲しいから? 記念に残したいから?」  どうして?   問うてくるレオンハルトに、何をどう言えば良いのだろうか。  その通りだと、ごまかしてしまえば良いだけだ。なのに、どうしても声が出ない。 「……見て、ほしいから。ぼくを見ていてほしい、から」  何を言っているのだろう。  好意を抱いているとはいえ、レオンハルトは今日、初めて出会ったようなものだ。  馬鹿正直に答える必要なんてないのに、サファイアの瞳にあらがえない。  我も忘れて、すがりたくなる。 「僕の目も、作りたい?」  試作ではあるものの、すでに作り始めていた。  ポケットの中には、サファイアが入っている。   それすら見透かされているようで、ビーシュは結局、うまくごまかせずに頷いた。 「そう。ビーシュは僕の目をよく見ているものね」     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加