一章 矢車菊の青い瞳は

9/51
前へ
/289ページ
次へ
「少尉こそ、俺たちのために命をかけてくださり感謝しています。無事のご帰還、うれしくおもっています」  きまじめなニルフの返答に、レオンハルトは自分よりもいっそ軍人らしいなと、苦笑を返した。 「ありがとう。でも、おおげさだよ、ニルフ。僕のような貴族上がりの軍人は、お飾りみたいなものだからね」  小さい頃と同じように、柔らかいニルフの髪をなでた。  垢抜けない笑顔が魅力的なニルフは、このまま、何事も問題なく話が進めば、レオンハルトの弟になる。  周囲に流されるまま婚約を決めたレオンハルトとエリスの乗り気のなさとは対照的に、ニルフは心の底から二人の縁談を喜んでいるようだった。 「僕を、出迎えにきてくれたのかな?」  のろのろとやってきた乗合馬車には乗らず、レオンハルトは停留所に止まっている個人所有の馬車に視線を向けた。 「ええ、遠征から戻られると聞きましたので、早速姉にお逢いいただけないかと。なにせ、婚約が決まってからまだ一度も、顔を合わせてはいないでしょう?」  ニルフが指を指す先、アーカム家の家紋が描かれた馬車があった。 「エリスとは、小さい頃から嫌と言うほど顔を合わせているからねぇ」  今更、と言いかけたレオンハルトの袖を引っ張り、ニルフは問答無用と歩き出した。     
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

690人が本棚に入れています
本棚に追加