二章 真実の口

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5 レオンハルトの休日は、いつまでなのだろう。  遠征から帰ってきた軍人は、長い休暇を取るのが一般的だが、レオンハルトはすぐに軍部へと戻ってしまった。  仕事熱心なのはいいが、人生の伴侶となる女性を放置したままなのはいただけない。 「姉さんも姉さんだ。自分の一生がかかっているだろうに、どうしてレオンさんに強く言わないのか。黙っていても、婚儀の話は進むとはいえ、だ」  寝所に入ってもなかなか寝付けないでいるのは、おもいどおりにまったく事が運んでいないからだろう。  いらだちに、ニルフの青い瞳は爛々と冴えていた。  窓辺にカウチを引っ張って月明かりのしたで本を読む気分でもなく、ニルフはランプを片手に、夜警のまねごとをすることにした。  屋敷には正規に雇った警備の者がいるので歩き回る必要などまったくないのだが、ふつふつとわき出てくる感情は、酒を煽ったところで消えるような気がしない。 「さっさと、結婚してしまえばいいのに」  うっかり声が大きくなって、ニルフは慌てて口をつぐんで周囲を見回した。  誰もいない。確認してから、ほっと息をついて足早に廊下を歩いて行く。     
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