二章 真実の口

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 ここにいるぞと、わざと知らせている音。   わずかばかり悩んだが、ニルフは誘いに乗ることにした。とっくみあいは苦手だが、いざというときのために身構えると、軽快な笑い声がかけられた。 「聞いていなかったのかな? 乱暴を働くつもりはないよ。君が、じっとしていたらの話だけれどね」 「信じられないだけだ」  背後のドレスを守るようにして立つニルフは、ランプの乏しい明かりの中に、すっと入りこんできた人影に、こめかみを脂汗で湿らせた。  フードのついた深い臙脂色のコート。少しでも目を離せば、再び闇の中に消えてしまいそうな出で立ちの、おそらくは男。年齢は、顔をすべて覆い隠す仮面によって隠され、わからない。  明らかに、不審者だ。  物取りだろうか。 (警備の連中は、いったいなにをしているんだ)  ニルフはぎりぎりと唇を噛む。警備員ごっこではなく、本気で帯刀して出歩けば良かったと今更ながらに後悔する。 「こんな夜更けに、如何様ですか」  仮面の男がおどけて言う。ニルフは「こちらの台詞だ」と言い返し、一歩、詰め寄る。 「なに、夜更けにふらふらと歩き回るあなた様を見つけまして、せっかくなのでご挨拶をしておかねばと思い立ちまして。このまま、姿を消すのも面白くないかと」     
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